ロンドン、マンチェスターと肩を並べるイギリス屈指の大都市バーミンガム。「ジュエラリー・クォーター」と呼ばれる中小の宝飾品店がひしめき合う地区で有名ですが、ここにかつて存在した〈W.A.ペリー〉という名のジュエラーが手掛けた1940年代の腕時計。「スパルタン」のペットネームの通り、スクリューバック式の重厚なステンレススチールケースとミリタリーダイヤルを組み合わせた質実剛健な一本です。 ステップドベゼルを備えたフルSSケースはいわゆる「トレタケ」。3点のオープナーインセットからその名が来ていますが、何よりラウンドのフラットベゼルが階段状に配される重厚感のあるシルエットは圧倒的で、代表作であるロンジンのそれを中心に高い人気を誇っているのは周知の通りです。大振りなリューズも、実用性と力強いルックスを強調する好デザイン。 アラビア数字とペンシルハンドに夜光塗料が盛られたミリタリーウォッチを彷彿とする文字盤デザインですが、文字盤外周とスモールセコンドにレイルウェイ・インデックスをそれぞれ相似形に配置したり、中央に円周を挟んだりと幾何学図形による装飾が絶妙で、ヴィンテージウォッチならではの文字盤の凝縮感を味わえる美しい仕上がりは、どこかジュエラーらしい上品さすら感じさせます。ライムグリーンに経年変化したツートーンダイヤルも、この腕時計の唯一無二の個性を演出しています。 ムーブメントは〈A.シルト〉社のCAL.984を搭載。同社は1926年に設立されたムーブメント製造会社連合とも言える「エボーシュSA」の中心的存在で、1896年にアドルフ・シルトがスイス北部のグレンヒェンで創業したエボーシュメーカーです。このモデルの特徴は、駆動の際最も忙しく動く部位のひとつであるガンギ車の受け(ブリッジ)を独立させ、メンテナンス性を高めている点。当時多くの腕時計に採用されていたいわば汎用的なムーブメントではありますが、ストライプフィニッシュのブリッジにもクオリティ指向の強さが伺えるほか、ショックレジストが装備されている点も見逃せません。 着用するベルトは、当店オリジナルの〈アノニム〉。英国の伝統的な製法で作られる堅牢なブライドルレザーを素材に使用し、英国のナショナルカラーとして知られるグリーンをセレクト。表面に白く浮き出ているのは「ブルーム」と呼ばれるロウの成分で、使用するうちに徐々にブルームが取れ、美しい光沢が生まれます。